名古屋大学医学部附属病院腎臓内科日記

当教室の後期研修医の日記も随時更新中です。

ISSCRに行ってきたよ3

第3話 野望と気球と

 第2話あらすじ:荷物が届かない神村君を坪井先生が助けてくれたよ。金先生のポスター写真が自撮りだったよ。

 3日目の朝である。依然として神村君の荷物は届かない。ホームページのステータスも空港に到着した状態で更新されていなかった。神村君は割とのんびりしているので、空港は近いし、届かなければそのうち取りに行けばいいや、くらいに考えていたが、ここで坪井先生が動き出す。頼もしいことこの上ない。
 神村君はJALのスウェーデン支局に電話することに。坪井先生はブロンマ空港に電話することに。
 桃太郎か。
 JALはまず電話が繋がらない。ようやく繋がってもうちの管轄ではないという素っ気ない対応。
 ブロンマ空港の方は当たりで、ホテルに送ってもらえることになった。向こうに言わせると、神村君に電話が繋がらなかったとのことだが、こちらは旅行者なのでWifiがなければ繋がらないのは当たり前だろう、というのが神村君の感想である。メールアドレスを伝えているので、そちらで対応すれば良いところであるが、もう本当にいい身分としか言いようがない。
 この日は、スカンセンというスウェーデンの伝統的な生活を伝えるためのテーマパークに行った。400〜500年くらい前からの民家などが移築されていたり、学校や農場なども再現されている。さらに、動物園や水族館などもあって、子供連れにはうってつけのところだ。日本で言うと、明治村と日光江戸村が一緒になって、遥かに地味にしたみたいな印象である。え、動物の要素?日光江戸村に猿とか、にゃんまげとか、いなかったっけ?まあ、日光江戸村には行ったことがないので勝手なイメージだ。
 船で観光の中心、ガムラ・スタンに戻り、昼食を食べた後、神村君は別行動を取る。
 この日の朝,神村君は坪井先生と金先生に、どうしても行きたいところがある、と告白をしていた。ストックホルム郊外にあるグスタフスベリにどうしても行きたかったのである。ここには、今、大人気のリサ・ラーソンの工房があるのである(え、知らない?)。神村君は、実は十数年の経歴を持った若手ながら気鋭のコレクターである。その神村君が数年前から注目していた作家の工房が近くにあるわけで、このチャンスをみすみす逃すわけがない。これが、神村君の秘めた野望であった。
 彼女の工房は高速バスで30分ほど乗ったところにあった。バス停からほど近いところに陶器のショップ、博物館などが集まった場所があり、その中にあるのである。工房は初めからオープンな状態で、観光客が訪れることが想定されている作り。やや珍しいものも置いてあるが、日本で入手困難なものはあまりないのを確認する。工程を見学できたのが大きな収穫であった。
 工房の隣にアンティークの店があるので、そこを覗く。カウンターの後ろにリサ・ラーソンの作品が置かれていたのだが、その中に目を引くものがあった。気球である。
 神村君は既にその価値を知っていて、心の中の欲しいものリストに入っていた。にわかに緊張する神村君。しかし、カウンターの奥にあるので、売り物かどうかもわからないし、値段もわからない。ベルを鳴らすが、店員さんも出てこない。緊張した時間がゆっくりと流れる。
 数分するとお婆さんが入ってきた。謝りながらカウンターの中に入る。どうやら店主のようだ。気球が売り物かどうか尋ねると不敵な笑みを浮かべ、「もちろん」と答える。さらに、「とても高いけどね」と付け加え、こちらに気球を持ってきてくれた。小さな値札が貼られていて、確認すると現地の通貨単位で5桁である。お婆さんは気球の価値について説明してくれた。コレクターの神村君には既知の情報である。頭は完全に他のことを考えていた。
 さすがにちょっと価格面で躊躇したが、何よりも気に入ったシリーズが目の前にあるのだから、しばらく悩んだ後、購入することを決断した。お婆ちゃんが紙と段ボールで何重にも包んで、白のビニール袋に入れてくれた。貴重な割に簡素な包みでどきどきする神村君。
 もう帰り道は緊張しっぱなしである。傍目にはスーパーでスイカかメロンでも買ってきたかのようにみえるはずだが、緊張した面持ちでビニール袋を小脇に抱えるアジア人が、現地の人の目にどのように映ったのかは想像するしかない。
 ホテルに気球を避難させた後、学会会場に向かい、この日もポスターを見学。坪井先生と金先生に合流し、経緯を報告したところ、めちゃくちゃ驚かれた。そんな3日目のストックホルムの夜である。
 どうでも良いが、学会の話題が少なすぎるのではないか、という懸念がわずかながら存在する。どうでも良くない、という意見もあるかもしれない。貴重な意見である。
 そう言えば、この日の夜に神村君の荷物が届いた。もちろん大変安心したわけだが、気球のインパクトが強すぎて、後で振り返るとこれくらいのインパクトであった。
 残すところ、2日である。


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